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最高裁判所第二小法廷 平成2年(あ)1313号 決定 1994年4月13日

本籍

浦和市白幡三丁目一番

住居

同 別所三丁目一九番一四号四〇三

会社役員

山田義博

昭和二五年二月二二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成二年一一月五日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人古屋亀鶴、同神宮壽雄の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は所論のような趣旨を判示したものではないから、前提を欠き、その余は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 木崎良平 裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治)

平成二年(あ)第一三一三号

○ 上告趣意書

所得税法違反 山田義博

右の者に対する頭書被告事件につき、平成二年一一月五日東京高等裁判所第一刑事部が言渡した判決に対し、弁護人から申立てた上告の理由は左記のとおりである。

平成三年三月二七日

右弁護人 古屋亀鶴

同 神宮壽雄

最高裁判所第二小法廷 御中

第一 序説

一 一審判決の要旨

一審の東京地方裁判所刑事第二五部は、罪となるべき事実として、「被告人山田義博(以下「被告人山田」という。)は、埼玉県浦和市白幡三丁目一番九号一-一一一〇に居住し、東誠商事株式会社の取締役として同社に勤務する傍ら、個人で不動産の売買及び仲介業を営んでいたものであるが、被告人山田及び被告人野地は、共謀の上、被告人山田の所得税を免れようと企て、不動産売買の仲介手数料収入を忠峰商事の収入であるように装って除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

(一) 昭和五九年分の被告人山田の実際総所得金額が一億二五一三万一七二三円で、分離課税による土地の譲渡等に係る事業所得金額が八九三三万八七〇七円あった(別紙六の(1)修正損益計算書及び同六の(2)脱税額計算書参照)のにかかわらず、同六〇年三月一日、埼玉県浦和市常磐四丁目一一番一九号所在の所轄浦和税務署において、同税務署長に対し、同五九年分の総所得金額が一〇一七万八四六五円で、分離課税による土地の譲渡等に係る雑所得金額が一三二二万四五九四円であり、これに対する所得税額が六七三万九七〇〇円(ただし、申告納税額六七三万九〇〇〇円)である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の六)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億四一二六万四一〇〇円と右申告税額との差額一億三四五二万四四〇〇円(別紙六の(2)脱税額計算書参照)を免れ、

(二) 同六〇年分の被告人山田の実際総所得金額が三億八四〇五万五五〇五円で、分離課税による土地の譲渡等に係る事業所得金額が二億四五八〇万四一五円あった(別紙七の(1)修正損益計算書及び同七の(2)脱税額計算書参照)のにかかわらず、同六一年三月八日、前記浦和税務署において、同税務署長に対し、同六〇年分の総所得金額が二五七一万九六一九円で、分離課税による土地の譲渡等に係る雑所得金額が五一二五万一三八三円であり、これに対する所得税額が四〇五一万七九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の七)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額四億四一三〇万一二〇〇円と右申告税額との差額四億七八万三三〇〇円(別紙七の(2)脱税額計算書参照)を免れたものである。」

とほぼ公訴事実と同旨の事実と認定した上、被告人を懲役二年四月の実刑及び罰金一億三〇〇〇万円に処した。

二 原審判決の要旨

前記一審判決に対し弁護人から控訴を申立て、本件犯行に至る経緯、犯行の態様(いわゆる期ずれの問題)等諸般の事情を考慮すると、一審判決が、懲役刑に執行猶予を付さなかったのは、量刑著しく重きに失し、不当である旨述べて、量刑不当を主張したが、原審の東京高等裁判所第一刑事部は、

「本件は、その逋脱額が著しく巨額であり、逋脱率も平均九二パーセントに近く、所得税逋脱事犯としては極めて大規模な犯行と目される上、その犯行態様は、対価を得て架空領収証の発行を業とするいわゆる「領収証屋」ないしは「B勘屋」である野地を長期間、多数回に亘って、利用し、所得の仮装、隠蔽を図ったものであって、巧妙かつ悪質と評するほかなく、緒論にもかかわらず、これを単純、幼稚な手口と見るのは相当ではない。そして、犯行の動機は、主として将来の独立開業に備えて個人資産を蓄積するというにあり、所詮は私的欲求の実現に向けられたものであって、酌むべき事情に乏しいものというべきである。これらは総て被告人の納税意識の希薄さに起因するものと認められ、申告納税制度の趣旨を没却するものとして厳しい非難を免れない。被告人の刑責はまことに重大である。

そうして見ると、被告人が、本件を反省し、逋脱本税のほか、附帯税、地方税の納付を完了していること、担当税理士を更迭するなどして、経理・納税の態勢を改善し、また、事業を法人化すべく株式会社翔和を設立して、再犯なきを期していること、本件が新聞紙等に報道されるなどしていて、既に相当の社会的制裁を受けたと見られること、被告人には業務上過失傷害罪による罰金前科一犯のほかに前科がないこと、その他被告人の年齢、経歴、家庭の事情等所論指摘の首肯できる諸点を被告人のために十分考慮しても、被告人を懲役二年四月及び罰金一億三〇〇〇万円に処した原判決の量刑が、重過すぎて不当であるとは認められない。

ところで、所論は、本件では、被告人の量刑に当たり斟酌されるべき事情があるとして、多岐に亘って主張するので、以下、これに対する判断を示すこととする。

1 いわゆる「期ずれ」の主張について

所論は、昭和六〇年分の被告人の事業所得中「仲介手数料収入」の一部には、当該年分の所得に含まれないいわゆる「期ずれ」のものがあるから、これを実際所得金額から控除すべきであると主張する。すなわち、不動産の仲介斡旋については、その仲介斡旋にかかる役務の提供が完了し、手数料請求権が確定したとき、換言すれば、その仲介斡旋にかかる売買等の契約が成立した時点の収益として計上するのが原則であるけれども、現実には、契約成立の時点で仲介手数料の支払いがなされるのは稀であり、売買当事者間で代金の授受及び所有権移転登記がなされた時点、すなわち取引の完了時点でその支払いがなされるのが業界の実情であり、国税庁の通達でも、このような場合には例外として「ただし、法人が、売買又は交換の仲介又はあっせんをしたことにより受ける報酬の額について、継続して当該契約にかかる取引の完了した日(同日前に実際に収受した金額があるときは、当該金額についてはその収受した日)の属する事業年度の益金の額に算入しているときは、これを認める。」としている(法人税基本通達二-一-一一)。また、建設省においても、宅地建物取引業者に対し、宅地又は建物の売買等の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の受領については、「契約成立の際半額とし、代理又は媒介の責任を完了したとき残額とするよう」指導すべきものとしている(昭和二七年住発第二九八号建設省住宅局長通達)。そして、不動産仲介業界では、法人、個人を問わず、入金時に収益として計上することが広く行われており、被告人も、そのような方法によっていたのである。したがって、被告人の昭和六〇年分の「仲介手数料収入」のうち、同六一年に入金された一一件、少なくとも、入金のみならず仲介に伴う役務の完了や仲介手数料の金額の確定が同六一年に属する三件(合計一億一五〇〇万円)については、昭和六〇年分の実際所得金額からこれを控除すべきである、というのである。

しかし、本件は所得税法違反にかかる事案であって、所論援用の法人税基本通達は本件に適切でないところ、所得税法三六条一項によれば、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額」は、「その年において収入すべき金額」であって、その年に入金した金額でないことが明らかであるから、所論のうち入金事実のみを基準とする主張は採用の限りではない(ちなみに、同条項に関する所得税法基本通達三六-八は、「事業所得の総収入金額の収入すべき時期」として、「(5)人的役務の提供(請負を除く。)による収入金額については、その人的役務の提供を完了した日。ただし、人的役務の提供による報酬を期間の経過又は役務の提供の程度等に応じて収入する特約又は慣習がある場合におけるその期間の経過又は役務の提供の程度等に対応する報酬については、その特約又は慣習によりその収入すべき事由が生じた日」としているのみであって、所論法人税基本通達のように、取引完了日や入金日を基準とする例外を許容してはいない。)。

次に、「その年において収入すべき金額」とは、通常は、その年中に役務の提供が完了し、仲介手数料の金額が確定している場合をいうものと解されるから、これが翌年にずれ込んでいると所論が主張する三件の取引について、個別に検討する。

(1) 不動産商事株式会社を支払者とする二四〇〇万円(被告人の検察官に対する昭和六二年一〇月一八日付供述調書添付の資料1番号41の取引)

この「渋谷区東三丁目物件」の取引については、被告人が検察官に対する昭和六二年一〇月一八日付供述調書で詳細に説明しているとおり売買契約が成立した同六〇年一〇月五日の時点で右物件取引に関する被告人の役務の提供は完了し、仲介手数料の金額も確定したものと認められるから、昭和六〇年分の収入と認めるのが相当である。所論指摘の幅二メートルの私道部分は、右物件取引とは個別に売買の対象とされて、被告人の仲介で同六一年三月に御祖酒造株式会社からロイヤル航空事業株式会社に売却されて、その時点で仲介手数料の金額が決まったものと認められるから、この仲介手数料一一〇〇万円は同六〇年分の収入とはされていないのである。

(2) 前田地所株式会社を支払者とする五二〇〇万円(前記番号51の取引)

この「千代田区内神田物件」の取引については、前田地所株式会社の代表取締役の前田利幸が検察官に対する昭和六二年一〇月一二日付(本文二八丁綴)供述調書で説明しているとおり、被告人に支払うべき仲介手数料の金額は、売買契約が成立した昭和六〇年一二月一〇日には確定していなかったものの同月中には確定したことが認められるから、これが昭和六〇年の収入とされるのは当然である(前田利幸の調書中の所論指摘の部分は、同人が、仲介手数料の金額が確定した時期について述べたのち、この手数料の支払に関する確認書の完成時期について説明し、この時期も昭和六〇年一二月中と記憶しているが、被告人から翌年一月になってからであると強く言われたので、この点は記憶がぐらつくようになった旨述べているものに過ぎず、所論の根拠となるものではない。なお、本件においては、所論の建物賃借人の立退問題の解決時期の点は、仲介手数料収入の帰属時期を左右するものではない。)。

(3) 日本エステート株式会社を支払者とする三九〇〇万円(前記番号58の取引について)

この「飯田橋二丁目物件」の取引については、被告人が、検察官に対する昭和六二年一〇月二六日付供述調書(七丁綴)において、所論引用の同月一八日付供述調書の供述内容を補正して、被告人が日本エステート株式会社(以下「日本エステート」という。)から仲介手数料として売買代金の一・五パーセントに当たる三九〇〇万円を受け取ることは、売買契約の成立した昭和六〇年一一月一三日までに決まっていた旨供述し、日本エステートの関係者(斉藤政専務及び大竹正樹不動産部長代理)も、検察官の取調べに対し、これに副う供述をしているのであって(所論引用の高品一夫の検察官に対する供述も、これらの供述と相容れないものでない。)、これらの関係証拠によれば、被告人の仲介手数料債権は昭和六〇年中に確定していたものと認めるのが相当であり、所論指摘の点は、被告人が、裏金作りの目的で右仲介手数料の受取人にランドフィールド株式会社の名義を借用することや支払時期の繰上げなどを申し出たため、これらの点について日本エステートの了解を取り付けるのが翌年にずれ込んだというに過ぎないものと認められる。

以上のとおり、原判決には仲介手数料収入の期間帰属を誤った違法はなく、これが存在をするものとして量刑上被告人に有利に斟酌することを求める所論は、その前提を欠くものというべきである。

2 高品一夫に対する仲介手数料の支払いについて

所論は昭和五九年になされた「人形町二丁目物件」に関する取引(売主を太陽開発システム株式会社、買主を富士拓建株式会社(以下「富士拓建」という。)とする売買及び売主を富士拓建、買主を日本エステートとする売買)について、被告人は右取引の仲介者である高品一夫(以下「高品」という。)に仲介手数料として金一〇〇〇万円を支払っているから、この金額だけ同年分の所得金額が減額されるべきものであって、この点を量刑上斟酌されたい、というのである。なるほど、被告人は、検察官の取調べに対して所論に副う供述をし(昭和六二年一〇月二〇日付供述調書)、原審公判廷でも同趣旨の供述をした上、当審においても、この点を強調する供述をしているが、これらの供述には曖昧な点や不自然な点がみられ、たやすく措信できない。そして、当審で取り調べた高品の検察官に対する昭和六二年一〇月二〇日付供述調書によれば、同人は、検察官から、この点について事情を聴取された際、被告人の主張内容を知悉しながら、具体的な理由を挙げてこれを明確に否定していることが認められるのである(したがって、所論のように被告人に対して検察官が誤導質問をしたものとはいえない。)。もっとも、同人は、当公判廷において、これを変更して所論に副うかの如き供述をしているけれども、この供述には被告人に対する迎合の態度が顕著であって到底措信できず、記録を調査しても他に所論を認めるに足る証拠はないから、結局、この所論も前提を欠く。

3 その他の量刑事情について

まず、所論は、本件犯行の動機に関し、被告人には、原判示の独立資金の蓄積のほか、<1>東誠商事の業務遂行のために被告人が個人的に負担した交際接待費や簿外の立退料等の資金を捻出する必要があり、また、<2>実父越沼義秋(以下「越沼」という。)の経営にかかる富士拓建や以前世話になった吉田美一の息子吉田毅一経営の株式会社日和に対する援助資金を捻出する必要があった上、<3>東誠商事の代表取締役である山口誠や他の同業者等の所得を大幅に上回ることになる実際所得金額を正直には申告しにくい状況があったので、これらの事情を有利に斟酌されたい、というのであるが、仮に所論のとおりとしても、<1>のうち立退料等の点は、被告人が、所論も認める「業界の悪しき慣習」に漫然従った結果に過ぎないし、会社の許容限度を超えた接待交際費等を個人負担までして業績を挙げる必要性は認め難いから、かかる資金の捻出の必要をもって量刑上特に有利な情状とはいえず、また、<2>の点が本件の如き大規模で態様の悪質な脱税事犯の動機として特に斟酌すべきものとは考え難く、更に、<3>の点も、被告人のために酌むべき情状とは到底いえないところであって、結局、この緒論は採用できない。

次に、緒論は、原判決は、その量刑の理由の項において、被告人は「領収証屋」である野地を長期間利用しただけでなく、本件以前から、越沼の経営にかかる富士拓建名義の架空領収証等を利用して所得を秘匿していたことが窺われ、また、越沼から野地を紹介されるや、ためらうことなく同人を所得隠しに利用し協力させて、「領収証屋」による架空領収証の発行を助長させた旨説示して、被告人の悪い情状としているけれども、本件では、野地の方から架空領収証等の利用を積極的に持ち込んできたものであって、同人こそ被告人の脱税を誘発、助長させたものであり、また、富士拓建名義の架空領収証の発行は実父の越沼を救済するためのもので、被告人の脱税が目的ではなかったのであるから、これらの点を被告人の悪い情状とするのは相当でない、というのである。しかし、被告人と野地との関係については、被告人が自己の所得を秘匿するために「領収証屋」である野地を利用し、野地が架空領収証代等の報酬獲得のためにこの被告人の所得秘匿工作に協力して、その結果、巨額の所得税を逋脱したことが、それぞれに悪質なのであって、被告人及び野地に対する量刑の理由として、その旨を説示している原判決は是認できるところであり、また、被告人が野地と知り合う以前から富士拓建名義の架空領収証等を利用して自己の所得を秘匿等していた形跡があることは関係証拠上否定できず、これが仮に越沼に対する資金援助を主目的としたものであったとしても、やはり、被告人の納税意識の希薄さを窺わせる悪い情状といわざるを得ないから、その旨説示した原判決に誤りはなく、この所論は採用するに由ない。

その他、いわゆる脱税協力金の支出、犯行後における所得税率の低減、大企業による逋脱犯罪に対する刑事訴追の実情あるいは類似事案における下級審の裁判例等に関する縷々の所論は、いずれも弁護人独自の見解を前提とするものであって、本件の量刑事情として考慮することは相当でないものといわざるを得ない。

以上のとおりなので、量刑不当の論旨は理由がない。」

と判示して弁護人の控訴を棄却した。

第二 上告理由

一 原判決は、所得税法第三六条、所得税基本通達三六-八-(五)の解釈適用を誤った違法の疑いが濃厚であり、かつ、宅地建物取引業の仲介等手数料の帰属時期について判示した東京高等裁判所判決(昭和四八年八月三一日宣告、行裁例集二四巻八・九号)と相反する判断をした違法の疑いがある。

1 すなわち、弁護人は、原審において、被告人の営む宅地建物取引業に関する所得税法第三六条の「その年において収入すべき金額」については、原則として、被告人の仲介、斡旋等にかかる役務の提供が完了した時点、(その仲介、斡旋等にかかる不動産売買等の契約が成立した時点)の収入として計上するのを建前としているが(権利確定《発生》主義)例外として、その仲介斡旋等による不動産売買等の契約が成立した時点ではなく、その契約の履行が行われた時点等(所有権移転登記が行われ、その代金が支払われたとき等)に、仲介等手数料が支払われる特約ないし慣行があり、継続的に、その特約ないし慣行によって仲介等手数料が支払われている場合には、その仲介等手数料の支払われた時点の収入として、計上すること(権利実現主義)もこれを認める趣旨である旨主張した。これに対し、原判決は、「所得税法第三六条の『その年において収入すべき金額』とは、通常はその年中に役務の提供が完了し、仲介手数料の金額が確定している場合をいうものと解される。」旨判示して、弁護人の主張を排斥している。

2 しかしながら、原判決の右判示は、後記諸事情を考慮すると、所得税法第三六条の「その年において収入すべき金額」の解釈適用を誤った違法の疑いが濃厚であり、さらに、前記東京高等裁判所判決とも相反する判断をした疑いがあるので、破棄を免れないものと信ずる。

すなわち

(一) 東京都宅地建物取引業協会千代田・中央支部長をしている藤田和夫が、一審の東京地方裁判所において、証人として、「仲介手数料の計上は、取引が終わりましたとき入金があれば、その入金時に、また、契約時に仲介手数料を払いましょうという御好意の方がいらっしゃれば、いただいたその契約時に計上しております。………法律的なことは知りませんが、税務署的なサイドでは、どこに決めても結構であるということです。ただし、その一貫性をとること、今年はこうで、来年はこうですというようなことでは困るという行政上の指導を受けております。………つまり、現実に仲介手数料が入ってきたときに、その収入として計上しており、私のところの会員は、法人、個人を問わず、会員ですので、私が申し上げた法人の習いで、入金時で処理していると思います。」と証言していること(記録一九冊目二二八丁の一一九、一二〇、一二一)

また被告人も同様一審の裁判所で、

「国税庁の通達では、実際に入った入金日でよいということになっており、また、これは税務の関係ではないんですけれども、建設省の指導なんかでは、仲介料は、なるたけ契約のときには半分以内にしなさい。最後までやりなさいという業界への指導になっております。・・・要するに、契約が成立したときではなく、契約の履行が行われたとき、例えば、残代金が支払われて登記が完了したときに、仲介手数料が支払われる場合には、そのときに収入として計上するという取扱いが、不動産業界の実情であったということです。………私も、ほとんど取引の完了したときに、仲介手数料をいただいており、その時点の収入として計上しておりました。」と供述していること(記録二〇冊目、二二八丁の四七四、四七五)から、不動産業界では、法人のみならず、個人も一貫して仲介等にかかる売買契約の成立時点ではなく、その売買契約の履行されたとき、すなわち、不動産の売買代金等が支払われ、所有権移転登記が完了したときに、仲介等手数料の支払われるのが慣行となっており、その時点の収入として計上していることが認められる。

(二) また、法人税基本通達二-一-一一は、「土地建物等の売買、交換、賃貸借(以下二-一-一一において、「売買等」という)の仲介又は斡旋をしたことにより受ける報酬の額は、原則としてその売買等に係る契約の効力が発生した日の属する事業年度の益金の額に算入する。ただし、法人が売買又は交換の仲介又は斡旋をしたことにより受ける報酬の額について、継続して当該契約に係る取引の完了した日(同日前に、実際に収受した金額があるときは、当該金額については、その収受した日)の属する事業年度の益金に算入しているときはこれを認める。」と規定している。

この通達は、法人についてであるが、不動産の仲介等手数料については、その仲介等にかかる役務の提供が完了し、報酬請求権が確定した時点、すなわち、その仲介等にかかる売買等の契約が成立した時点での収入として計上すべきことを原則として規定しているが、例外として、継続的に仲介等にかかる売買等の契約が履行された日(その日に仲介等手数料を受領していれば、その日、前記のように、実務上は、その場合がほとんどである。)に、収入として計上している場合には、その時点での収入として計上することを認めている。

(三) さらに、宅地建物取引業法の所管庁である建設省は、「不動産の売買等の仲介等の人的役務の提供は、当事者間で、その仲介等にかかる売買等の成立のみをもって終了するとすべきものではなく、その契約等の取引の完了までの責任があり、その仲介等手数料については、売買等の契約成立時点では、二分の一以下の収受にとどめ、残額は、その取引の完了時に収受するよう、指導していることが認められる(昭和二七、第二九八号、建設省住宅局長通達)。

(四) それに加えて、東京高等裁判所は、「宅地建物取引業を営む控訴人(株式会社)が、昭和四一年七月三一日に、昭和四〇年六月一日から同四一年五月三一日までの事業年度(係争年度)の法人税について、課税所得八五万八七六六円、税額一一万九九〇〇円である旨の確定申告を行ったのに対し、被控訴人(税務署長)は、昭和四二年四月二八日付で、課税所得二一三万七〇三三円、税額五一万六二七〇円とする更正をした上、控訴人に対し、過少申告加算税一万九八〇〇円の賦課を決定した。それに対し、控訴人が、「その課税所得の一部である仲介手数料一四七万七五〇〇円と、未払手数料四四万円は、係争年度の益金又は、損金とならない。」旨主張して控訴したのに対し、「ある収益を、どの事業年度に、計上すべきかについて、法人税法は特例につき定めているほか(同法六二条ないし六四条)、原則的な基準について、同法自体の中に明文の規定をおかず、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って、計算しているにとどまる、そして、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によれば、ある事業年度内における企業活動の成果である収益は、その実現(権利確定主義に対応するもの)があったときの属する事業年度に計上すべきである。」と判示し、控訴人の請求を一部認容している(東高判昭四八・八・三一行裁判集二四巻八、九号八四六頁)。

本判決は、法人税に関してであるが、課税所得計算における益金(収益)計上時期について、従来の原則である権利確定(発生)主義によるという考え方から脱却し、権利実現主義によることを判示している。

ところで、本件不動産取引の仲介等手数料については、前記東京都宅地建物取引業協会千代田、中央支部長が証言しているように、法人、個人を問わず、継続して、仲介手数料が支払われたとき(権利実現主義)に、その年の収入として計上している場合には、その年の収入として処理しており、その処理を、税務当局が承認していることが認められる。また、不動産取引業に関する監督官庁である建設省も、前記のように、権利実現主義によるべきことを指導していることが認められる。これらの実情を考慮すると、不動産取引の仲介等手数料に関する限り、所得税法第三六条、所得税基本通達三六-八-(五)の解釈適用については、権利実現主義に立却するのが相当である。したがって、右権利実現主義をとらなかった原判決には、所得税法第三六条、所得税基本通達三六-八-(五)の解釈適用を誤った違法の疑いが濃厚であり、かつ前記東京高裁判決と相反する判断をした違法の疑いがある。

二 原判決には、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認がある。

1 原判決は、被告人の昭和六二年一〇月二〇日付検察官に対する供述調書添付にかかる、売主太陽開発システム株式会社、買主富士拓建株式会社間の東京都中央区日本橋人形町二丁目二六番二の宅地建物についての売買契約書及び売主富士拓建株式会社、買主日本エステート株式会社間の右同じ宅地建物に関する売買契約書記載の取引について、弁護人が、被告人は、右各取引を仲介した株式会社三創の代表取締役高品一夫に対し、その仲介手数料として、金一〇〇〇万円を支払っているので、同金額は、同五九年分の所得から減額されるべきである旨主張したのに対し、「被告人は、検察官の取調べに対し、所論に副う供述をし(昭和六二年一〇月二〇日付供述調書)、原審公判廷でも、同趣旨の供述をした上、当審においても、この点を強調する供述をしているが、これらの供述には、曖昧な点や不自然な点がみられ、たやすく措信できない。

そして、当審で取り調べた高品の検察官に対する昭和六二年一〇月二〇日付供述調書によれば、同人は、検察官から、この点について事情を聴取された際、被告人の主張内容を知悉しながら、具体的な理由を挙げて、これを明確に否定していることが認められるのである(したがって、所論のように被告人に対して、検察官が誤導質問をしたものとはいえない)。もっとも、同人は、当公判廷において、これを変更し、所論に副うかの如き供述をしているけれども、この供述には、被告人に対する迎合の態度が顕著であって、到底措信できず、記録を調査しても、他に所論を認めるに足る証拠はない。」旨判示して、弁護人の主張を排斥している。

2 しかしながら、被告人は、右高品に対する仲介手数料一〇〇〇万円については、原審公判において、「契約した年の年末に近いころ、東誠商事の駐車場において、銀行から払い戻したままの状態で、一〇〇〇万円(一〇〇万円の束一〇個を十文字に大結束したもの)を、紙袋に入れて高品さんに渡しました。」と明確に供述している(被告人の原審公判供述調書一二ないし一三丁)。

それに加えて、被告人は、第一審公判においても、「昭和五九年の富士拓建名義の売買に関して、人形町の土地なんですけれども、これは、日本エステートに売った件で、これを仲介してくれたのが三創の高品社長なんですが、売買益の二千数百万円の中から、一〇〇〇万円をお渡ししてあります。」と同様明白に供述している(第一審記録二〇冊目二二八丁四七八)。

また、捜査段階でも、高品社長に仲介手数料として一〇〇〇万円を渡した旨明確に供述している(第一審記録一六冊目、二二七丁の三八二〇)。

以上から、被告人の供述は、原判決判示のように決して曖昧な供述ではなく、また不自然な点も見出しがたいので、被告人の供述は十分信用できる。

3 また、高品は、捜査段階では、被告人から、仲介手数料として一〇〇〇万円を受取ったことはない旨供述したものの、原審公判では、証人として、「確しか年末だったと思いますが、東誠商事さんの駐車場で、デパートか何かの袋に入った一〇〇〇万円を、現金で被告人から貰っています。」と明白に被告人の供述に副う証言をしている(原審証言調書二丁ないし七丁)。

そして、弁護人から、原審公判において、捜査段階で否認した理由について尋問された際、「検察官に呼ばれたのは生まれて始めてのことでしたし、夜遅くまで取引関係のことを聞かれて頭が混乱していたのに加えて、その一〇〇〇万円については、所得申告をしていなかったので、つい嘘を言ってしまいました。」と捜査段階で否認した理由について合理的に証言している(同証言調書二丁)。

したがって、高品の証言には、原判決指摘のような、被告人に迎合して証言した事実は認められず、その証言態度、証言内容等も一貫している上、捜査段階における供述に変更した事由についても、合理性があって肯認できるので、原審公判における証言は、十分信用に値するということができる。

以上から原判決が被告人及び高品の公判における供述を措信しがたいとして、排斥し、被告人が、高品に仲介手数料として、金一〇〇〇万円を支払った事実を認めなかったのは、重大な事実の誤認と言わなければならない。

三 原判決が本件について、被告人を懲役二年四月及び罰金一億三〇〇〇万円に処した一審判決の刑の量定を相当とし、弁護人の控訴を棄却したのは、左記諸事情から刑の量定が甚だしく不当であり、これを破棄しなければ著しく正義に反する。

1 すなわち、原判決は、弁護人が本件犯行の動機について、

(一) 被告人は、本件当時勤務していた東誠商事株式会社の業績をあげるため及び、不動産業界の実情として、不動産取引を成立させるにつき、その売買代金、立退料等の一部を簿外で支払うよう要求される場合があるので、それらの接待交際費や簿外資金を必要としたこと。

(二) 業績の悪化していた実父越沼義秋経営にかかる富士拓建株式会社及び養親ともいうべき吉田美一の息子の吉田毅一経営にかかる株式会社日和へ援助する資金が必要であったこと。

(三) 被告人は、前記東誠商事の代表取締役社長山口誠に対し、独立して不動産取引業を営みたい旨懇願していたが、同社長がその独立を認めなかったため、同会社社員として、不動産取引の仲介等に従事さぜるを得なかったところ、同会社社員としては、同社長の申告所得を超えるような、また他の同業者の所得と比較して、同様多額となるような正規の所得申告はこれをなし難い状況にあったこと。

などの複雑な諸事情が絡み合った結果に基づくものであるから、その犯行の動機については、十分斟酌を賜りたい旨主張したのに対し、

(一)の会社の業績をあげるため、接待交際費の捻出が必要であったとの点については、会社の許容限度を超えた接待交際費を個人負担までして、業績をあげる必要性は認め難い。また、立退料等については、被告人が業界の悪しき慣習に漫然と従ったにすぎないので、量刑上特に有利な情状とはいえない。

(二)の業績の悪化していた実父越沼義秋経営にかかる富士拓建株式会社等に資金を援助するためであったとの点については、本件の如き大規模で態様の悪質な脱税事件の動機としては、特に斟酌すべきものとは考え難い。

(三)の東誠商事の社長の申告所得を超えるような所得申告をなし難い事情等にあったことについては、被告人のために酌むべき情状とは到底言えない。

旨判示して、弁護人の主張をすべて排斥している。

しかしながら、これらの被告人の犯行の動機については、弁護人が、控訴趣意書中で詳論しているように、十分斟酌に値すると考えられる。

すなわち、

(一)の業績をあげるための接待交際費の捻出については、被告人は、当時東誠商事の山口社長から、会社の飛躍的発展を期するため、毎年不動産取引の件数が増加するよう、その業績をあげることを指示されていたことから、その成績の向上に全力を投球していた。しかし実際にその業績をあげるためには不動産売買等に関する情報の確保、不動産売買等に関する得意先の開拓等、人脈の形成等が必要であり、その人脈の形成等のためには、簿外の接待交際費が必要であることは、私企業における常識となっていると言っても過言ではないことを考慮すると、被告人の行為について、直ちに原判決判示のように認定し得るか疑問である。

また、簿外の立退料等については、現実に立退料を、支払わないと、その立退きを承諾しない借家人等がいる場合には、その立退きを担当する者としては、その職責を全うするため、簿外の立退料を支払わざるを得ない立場に追いこまれるのが実情であることを思慮すると、原判決判示のように、被告人が不動産業界の悪しき慣習に漫然と従ったにすぎないとすることは酷といわざるを得ない。

次に(二)の業績の悪化していた実父ら経営にかかる富士拓建等に対する援助資金を捻出するためであったとの点については、親子等の情誼上断り切れなかった事情等を考慮すると、一概に原判決判示のように認定しうるか大いに疑問のあるところである。

また、(三)の東誠商事の申告所得を超えるような所得申告をなし難い等の事情にあったことについては、現実の所得の申告状況、それに対する税務署の調査等に思いを至すとき、被告人のような思考に到達することは往々にして見受けられるところであるから、被告人に有利な情状として考慮されてしかるべきである。

2 また、原判決は、被告人が、いわゆるB勘屋などと呼ばれるいわゆる領収証屋を利用した点につき、弁護人の、この種事犯では、大かれ少なかれ架空の領収証等を利用しているのが実情であるから、それのみをもって、その犯行の手段態様が、計画的巧妙かつ大胆な犯行と断定するのは、いかがかと考えられる上、本件は、税務当局から調査を受ければ、たちまちその全貌が明らかになるような単純かつ比較的幼稚な犯行態様であるから、原判決判示のように、計画的巧妙かつ大胆な犯行とはいえないとの主張に対し、「被告人と野地との関係については、被告人が、自己の所得を秘匿するために、領収証屋である野地を利用し、野地が、架空領収証代等の報酬獲得のために、この所得秘匿工作に協力して、その結果、巨額の所得税を逋脱したことが、それぞれに悪質なのであって、被告人及び野地に対する量刑の理由として、その旨を説示する原判決は是認できるところであり、……………その旨説示した原判決に誤りはなく、この所論は採用するに由ない。」と判示して、弁護人の主張を排斥している。

ところで、本件犯行の手段、態様は、この種事犯の際行われる伝票の振替操作等による、売上の除外とか、架空経費の計上等による、複雑、巧妙な手口によるものではなく、前記野地らに、一定の手数料を支払って、架空領収証の交付を受け、その領収証を使用し、仲介手数料を除外する等の手口が大部分である。

したがって、いわゆる領収証屋を利用した点はともかく架空の領収証の利用は、現実の逋脱事犯では通常行われている手口であり、税務当局の調査を受ければ、容易にその全貌が判明する態様であるから、原判決判示のように巧妙かつ大胆で、悪質な犯行とは断じ難いといわなければならない。

3 原判決は、量刑の理由において、本件のほ脱税額が高額であり、ほ脱率も九二パーセントに近く、所得税ほ脱事犯としては極めて大規模な犯行と目されることなどを指摘し、刑責はまことに重大であると判示している。

しかしながら以下に指摘する同種事例との対比、所得税法の税率や法人税法の税率との対比、大手企業によるほ脱事犯との対比、本件においては修正申告により本税等を完納していることなどを考慮すると、右の点が被告人を実刑にしなければならない程重要な要素とは認め難い。

(一) 同種事例との対比

全国的にみれば、巨額の脱税事件といわれる刑事事件でも執行猶予が付されている事件はしばしば見られるが、最近でも脱税額が五億五三六八万一〇〇円であって、本件被告人より多額の所得税法違反事件について、その行為者であり、納税義務者である当該被告人につき「被告人を懲役二年及び罰金一億円に処する。右罰金を完納することができないときは、金一〇〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。この裁判確定の日から三年間右執行刑の執行を猶予する。」との判決がなされた(判例時報一二八二号一六九頁)。

この事案では、被告人がいわゆる長者番付で公表されることをさけるなどのため虚偽過少の税務申告をして脱税したというもので、これと右事案では事前の不正行為をなしていない点が量刑上考慮されたようである。しかし、動機等は右事件の判決のとおりとしても、本件より多額の脱税事件について執行猶予に付しているのである。

反省し修正申告の上、本税等を納付している点でも本件と右事件とは共通している。

また、右事件のほ脱率は、九九パーセントと高率である点でも本件と共通である。

右の共通点から、本件の被告人につき執行猶予を付しても何ら不自然ではなく、むしろ好ましいことというべきである。

(二) 所得税法の税率

わが国の所得税法は累進課税が適用されているが、この最高税率は法人税の税率より著しく高率である上、諸外国に比較し所得税の最高税率が、超八〇〇〇万円の所得に対し七〇パーセントと極めて高率となっていることは公知の事実であり、しかも、重加算税、延滞税及びいわゆる土地重課の税率も高く、所得税法違反事件にあっては、これに地方税をも加えると、ほ脱所得の一二〇パーセント程度を納付しなければならないという苛酷な事案も多く存し、まさに本件もこれに該当する事案である。

アメリカでは既に、最近所得税法を改正し、それまで最高税率が五〇パーセントであったものを、二八パーセントと一五パーセントの二段階に、低率化したのであり、イギリス・カナダでも低税率化方向に向かっている。

これに対し、わが国の場合、所得税の最高税率が右のとおり超八〇〇〇万円の所得に対し七〇パーセントと極めて高率であり、これに地方税一八パーセントが加わるのであるから(昭和五九年分は、課税制限で八〇パーセント、昭和六〇年分から同制限は七八パーセント)、極めて高率であることは明らかである。このような事情から、わが国でも所得税法を改正して昭和六三年分は最高税率が六〇パーセントと低税率化し、更に平成元年分以降は、同税率が五〇パーセントと一層低税率となった。

本件は、このように所得税法上、税率が最も高い時のものであり、被告人の税負担もそれだけ重いものとなっているのであるから、この点は量刑判断にあたって重視されて然るべきである。

ところで、税率が余り高過ぎる場合、脱税する者が増加することが指摘されており、しかも、その場合脱税する者の一部しか捕捉できないことになってしまう傾向にあると言われており、わが国もその例外ではない。そして、税率が極めて高い場合、脱税した者の一部を厳罰に処することによる刑罰の感銘力、すなわち百戒の効果もまた薄れてしまうとの指摘もなされている。この点も所得税法違反事件の量刑判断にあたって看過できない重要な問題といわなければならない。

(三) 所得税法と法人税法の税率

これらに加えて、所得税法違反事件と法人税法違反事件との関係を対比すると、周知のとおり本件当時、同額のほ脱所得であっても法人税法違反に比し、所得税法違反の場合最高税率が著しく高いため、課税面はもとより刑罰面でもほ脱額が高額となる上罰金も併科される等、所得税法違反者にとって著しく不均衡になっており、それだけ不利益な結果を生ずることとなっていることも看過できず、この点も量刑上配慮されて然るべきである。

(四) 大手企業によるほ脱事犯との対比

新聞等の報道によると、大手企業が関連子会社や海外の現地法人を利用し、あるいはダミー会社を介在させるなどして架空経費を計上したり、売上を除外し、また、完成工事や売上げを翌期に計上する方法をとったり、工事原価を水増するなどして巨額の申告漏れをしていることがしばしば指摘されている。これら大手企業の申告漏れは、何億、何十億にまでのぼっているが、法人税及び附帯税を追徴されるだけで、告発されたり公訴提起されないままとなっているのである。

しかし、新聞等の報道によると、これらにつき申告漏れが重加算税の対象となっていることなどからすると、本件におけると同様仮装隠蔽行為によってなされていることは明らかである。それにもかかわらず大手企業の場合、修正申告をし、重加算税、延滞税等を課せられるだけで処理されているのに対し、本件のような事犯については、査察調査を受けて告発され、逮捕勾留までされて、課税のみならず重い実刑と罰金の併科となることについては一般人ならずとも納得しがたいところである。

大手企業の場合、申告漏れが巨額であっても、全体の売上額が大であることや、あるいは経費に対する申告漏れ額の割合ないしはほ脱率が低いことによるものと思料されるものの、脱税事犯が検察官主張のように国家課税権に対する侵害であり、国家に対する詐欺罪ともいうべき自然犯であるとの立場によったとすれば、一層のこと大手企業であれば、なぜ処罰されないですむのかという点に大きな矛盾を感ぜざるを得ない。

このような点も量刑判断にあたって考慮されるべきである。

(五) 修正申告により全額納税した場合、実害の回復した財産犯と同様に評価すべきである。

検察官主張のように、脱税事犯が国家に対する詐欺罪ともみなしているとすれば、被告人は修正申告をするなどして、ほ脱した本税と延滞税を完納することによって、国家の被害は回復しているのであるが、これに加えて制裁的な重加算税を課せられて、これも納付しているのである。これに地方税を合計すると、結局被告人は、ほ脱所得を超える税金を納付している上、これらを納付することによって、最早国家に対する詐欺罪の被害は完全に回復しているばかりか、制裁としての効果も充分あがっているのであるから、国家の刑罰権の行使は軽度なものに止めて然るべきであると考える。

更に、被告人の場合所得税法違反事件であるため、法人税法違反事件の行為者と異なり、懲役刑に加えて罰金刑も併科されているのであり、被告人の第一審判決による罰金刑も多額のものとなっているのであって、この点も実刑にするか否かの量刑判断にあたって、充分検討考慮さるべきことである。

4 第一審判決及び原判決が不利な情状として指摘している情状について

第一審判決及び原判決は、被告人に不利益な情状として、本件犯行の動機、ほ脱税額、ほ脱率をあげて所得税ほ脱事犯として極めて大規模な犯行と目されるとしているほか

<1> 犯行態様は、対価を得て架空領収証の発行を業とするいわゆる「領収書屋」ないしは「B勘屋」である野地を長期間、多数回に亘って利用し、所得の仮装、隠蔽を図ったものであって、巧妙かつ悪質と評するほかない。

<2> 犯行の動機は、主として将来の独立開業に備えて個人資産を蓄積するというにあり、所詮は私的欲求の実現に向けられたものであって、酌むべき事情に乏しい。

<3> これらは総て被告人の納税意識の希薄さに起因するものと認められ、申告納税制度の趣旨を没却するものとして厳しい非難を免れない。

等の諸点をあげている。

右<1>については、確かに被告人が野地からの架空領収証発行の話に乗ってしまい、長期間架空領収証を利用したことは非難さるべきことではあるが、それも第一審判決指摘のとおり、野地の方から積極的に持ち込んできたものであることも事実である。また、富士拓建名義の領収証の点については、野地の場合と異なり、被告人がその所得を秘匿することに主目的があったのではなく、むしろ実父及び同人経営の会社に資金援助をすることが目的であったのであり、現に実父に前記のとおり多額の金員が渡ったままとなっているのであるから、この点は量刑上被告人に有利に考慮して然るべきものと思料する。

また、右の<2>の点についてみると、前記の被告人の動機どおり使用したほかに本件発覚まで一部蓄財したことは確かであるとはいえ、本件が発覚したことにより、この蓄財は全部発見されたのであり、しかも、ほ脱所得より多額の本税、附帯税及び地方税を納付することとなり、納税のため持ち出しとなってしまっているのが現実であり、終局的には蓄財の目的は何ら果たされなかったのであって、この点が考慮されて然るべきである。

更に右<3>については、被告人が実父から野地を紹介されて同人の話に乗り、所得秘匿の手段として架空の領収証を使用したことは、納税意欲が欠如していたと指摘されてもやむを得ないところであるとはいえ、むしろ、野地が架空領収証を発行することにより、被告人の脱税行為を誘発させ、助長した点が重要なのであって、被告人が野地の架空領収証の発行を助長させる要因となったとする第一審判決及び総て被告人の納税意識の希薄さに起因るすものであるとか、申告納税制度の趣旨を没却するものとする原判決の判示は正鵠をえていないものと思料する。

5 第一審判決及び原判決指摘の有利な情状については、量刑判断にあたって重要な点であると思料するので、これらの点について詳細を述べることとする。

第一審判決は、被告人に有利及び同情すべき情状として

<1> 本件後、その重大性を悟り、その非を反省して、税務当局及び捜査官に犯行を概ね自白し、再過なきを誓った。

<2> 修正申告をし、本税、附帯税等を完納している。

<3> 本件後、成立した会社において、新たな税理士を選任して適正な納税体制を整えるとともに、税理士、被告人の父及び妻等が被告人山田を指導監督する旨誓っている。

<4> 本件により二か月の間身柄を勾留され、しかも、新聞紙上等で取り上げられるなど、相当な社会的制裁を受けている。

<5> 業務上過失傷害の罰金刑以外に前科はない。

<6> 被告人山田の年齢、経歴、家庭の事情等。

をあげている。

また、原審は被告人に有利な事情として

「被告人が、本件を反省し、逋脱本税のほか、附帯税、地方税の納付を完了していること、担当税理士を更迭するなどして、経理・納税の態勢を改善し、また、事業を法人化すべく株式会社翔和を設立して、再犯なきを期していること、本件が新聞紙等に報道されるなどしていて、既に担当の社会的制裁を受けたと見られること、被告人には業務上過失傷害罪による罰金前科一犯のほかに前科がないこと、その他被告人の年齢、経歴、家庭の事情等」

をあげている。

しかし、それにもかかわらず、原判決は、被告人を懲役二年四月の実刑に処した上、罰金一億三〇〇〇万円に処した第一審判決を是認しているのである。

右の諸点を考慮すると、被告人に対し敢えて、実刑に処するまでの必要性は見出し難いところであり、第一審判決及び原判決は、結局、被告人に有利又は同情すべき情状として、右の諸点を列挙しているものの、これらを実質的には殆ど考慮していないのではないかとすら思われるので、これらの点を含めて被告人に有利及び同情すべき事情を以下に述べ、実質的に正しく評価し、量刑に反映されるよう切望する。

(一) 被告人は本件犯行を深く反省しており、再犯のおそれはない

被告人は、昭和六一年一一月一三日、東京国税局の査察調査を受けたことにより、本件の重大さと責任を痛感して改悟し、二度とこのようなことをくり返さないとの強い自覚のもとに国税局の調査において、いわゆる期ずれ等の一部問題点があったため、これらについてはそれなりの主張をしたものの、この点を除いて、事実経過等本件犯行につきありのままに供述して犯行を認め、かつ関係者も協力してきたものである。このような被告人の態度は、告発後の検察庁の取調べに対してはもとより、逮捕・勾留後においても公判段階においても全く変化していない。そして被告人の本件に対するこのような深い反省の態度と自覚からすれば、最早再犯のおそれは全くないものと確信する。

(二) 本件に関しては被告人は修正申告し、かつその後の更正決定分についても本税等を完納している

被告人は査察調査着手後、右のように改悟し、関与税理士にも調査に協力して貰う一方、国税局の調査により、本件に関するほ脱所得、ほ脱税額が確定した段階の昭和六二年四月六日、告発対象の昭和五九年分及び同六〇年分につき積極的に修正申告を行なった。この修正申告については、仲介手数料収入の計上時期に関する前記のいわゆる期ずれの問題があり、国税局と見解等が異る点があったため、被告人の見解により行ったものである。しかし、この修正申告に対しては、その後同年六月二五日国税局の見解により更正決定がなされたため、被告人は、これに従いとりあえず納税したものの、見解を異にするため異議申立を行った。そして、その後同六二年一〇月七日被告人は逮捕されて勾留の上取調べを受けたが、検察官は、右のいわゆる期ずれの点については、いわゆる発生主義によりながら、金額確定の有無及び労務提供があったか否かなどを実質的に検討した結果、告発額を減額して起訴したことにより、国税当局もこの起訴額に合わせて減額更正を行った。以上の経緯があったが本件の二年分の本税については五億三五五二万二六〇〇円全額納付ずみであり、附帯税の重加算税等並びに地方税についても順次納付して完納し、以上により納付した二年分の国税、地方税の合計額は八億六四一四万九一二〇円にのぼっている。

このように本件に関し積極的に修正申告をし、かつその後の更正決定等に従い納税に務めてきたのは、被告人の反省と自覚の現れであり、その誠意と努力は量刑上充分考慮されて然るべきである。

そして、このように納税してきたことにより、本件ほ脱による国家課税権侵害による被害は回復しているのである。

(三) 被告人は、本件により改悟し関与税理士の指導のもとに、その後は正しく所得税の確定申告を行っているほか、被告人は、予てから不動産仲介業の法人化を検討していたが、本件後、株式会社翔和を設立し、顧問税理士の強力な指導のもとに、いわゆるガラス張りの経営に撤することとし、帳簿等を整備して営業活動を行っている。したがって、この面からも再犯のおそれはないものと確信する。

(四) 被告人は、本件査察により右のように既に重い税負担を受け、それを納付することによって実質的に大きな経済的、社会的制裁を受けているほか、本件により二か月間逮捕、勾留されたのであるが、被告人にとっては、はじめてのことであり、その苦痛は計り知れないものがあり、実質的に刑罰と同様の制裁を受けたほか、逮捕、起訴時に、新聞、テレビ等で大きく報道されたことにより、被告人の精神面をはじめ家庭生活上及び事業上に多大な打撃を受けており、これによって刑罰に比肩する相当の社会的制裁を受けていると言っても過言ではない。

(五) 被告人は、本件犯行を犯したとはいえ、前記のとおり本件により特段の資産を形成したものではなく、かえって免れた所得以上の重い税負担を負ったものである。

(六) 被告人が、架空領収証発行代として野地らに支払った約四四〇〇万円については、被告人の手元から流出して留保されていないのに課税面で経費否認され、かつ、本件の所得計算上も経費否認されて刑罰の対象となっており、本件の制裁としては苛酷なものとなっているのであって、この点も看過できない点である。また、野地忠らに支払った架空領収証代については、被告人が、右野地らと共謀によるほ脱犯として起訴されているのであるから、架空領収証代は共同分配利益として、被告人の所得から減算することも可能な性格のものとも見うるのではあるまいか。

共同分配利益であれば、各人の取得分だけにつき、各人の収入として処理するのであるが、本件の場合も、各取引において架空の領収証を発行するに際し、その額面の一割を野地に渡す約束のもとに実行していたものであるから、被告人と野地との間で領収証代名目により一割を配分する約束ができていたと見ることもできるのであり、したがって、野地に渡った領収証代は、野地の分配利益と評価することもできるのである。そうであれば、被告人の所得から野地に対し領収証代として払った分は減算して処理するのがむしろ妥当とも思料されるのである。こうすることは、実態にも合致するとともに、架空領収証代として野地が得た分は同人の所得として課税対象になっている筈であるから、領収証代が被告人と野地の両者に二重課税となることを避けられることからも妥当ではあるまいか。

(七) 被告人の実父経営の富士拓建は忠峰商事と異り、いわゆる領収書屋ではない上、本件により実父及びその会社に渡った約一億円は、実父及びその会社の事業を援助する性質のものであり、これまで回収できないままとなっている点も無視できず量刑上考慮されるべきである。

(八) 本件においては、被告人の除外した仲介手数料収入につき、その三割以上が土地重課の対象と認定されており、そのためにほ脱所得とされている金額について、一層重い税負担となっていることとも看過できない事情である。

ところで、土地譲渡益特別課税制度、すなわちいわゆる土地重課の制度は、投機的土地取引の抑制に資するために設けられたものであるが、実状は、これによりかえって土地高騰を招来しているのではないかとも云われており、制度の趣旨が必ずしも反映していない面がみられる上、この土地重課の基礎となる土地譲渡益の計算も技術的かつ複雑であることなどから、土地重課のほ脱については、土地重課を除いた所得税のほ脱と非難可能性において同列に見られないものがあるものと思料される。

(九) 被告人には、昭和四五年に業務上過失傷害により罰金一万五〇〇〇円に処せられた前科があるほかには、前科、前歴がないのである。

(一〇) 被告人の量刑判断にあたって、考慮されたい被告人の身上経歴について、触れておくことにする。

<1> 被告人は、昭和二五年二月二二日、栃木県鹿沼市において、会社員の父越沼(旧姓山田)義秋、母山田とくの次男として出生し、同三一年四月、鹿沼市立小学校に入学して、同三七年三月、同小学校を卒業した。

その後、同市立西中学校を卒業し、同県立鹿沼高等学校に入学したが、同校二年の時、千葉県立国府台高等学校に転校し、同高等学校を卒業して、同四三年四月、中央大学経済学部に入学し、同四七年三月、同大学同学部を卒業した。

同大学を卒業すると、すぐ東京都中央区八重洲所在の広告業を営業としていた株式会社三和アドバタイジングに社員として入社したが、父の経営している不動産業界で働いてみたいという気持から、同四八年六月ころ、同社を退社し、同年七月、当時、同都中央区銀座一丁目一四番一三号に所在した東誠商事株式会社(代表取締役山口誠)に社員として入社し、同六一年一一月、本件事件の責任をとって辞職するまで、同会社で、営業部長、取締役営業部長、常務取締役等の要職を歴任している。

その後、被告人は、同年一二月、同都中央区日本橋人形町三丁目七番一三号に、兄山田哲男と共に、不動産取引を営業目的する株式会社翔和を設立し、同会社の実質的な経営者となって現在に至っている。

<2> ところで、被告人は幼児のころ、両親が離縁し、間もなく母が死亡した関係上、祖父母に養育されるようになったこと、父が再婚し、その間に子供が生まれたことなどもあって、家庭事情が複雑であったため、人知れぬ苦労を重ねて成長したが、生来温和で明るい性格である上、頭脳明晰な人物であったことから、それを乗り越え、小、中学校はもちろん、高等学校も優秀な成績で卒業し、さらに最高学府に入学して、それを卒業している。そして、社会人となってから、特に東誠商事に入社後は、その誠実、円満な人柄、不動産に対する評価、利用方法、付加価値のつけ方等に対する能力が秀れていたこと、労を惜しまず献身的に働いたため、会社内外の信用が厚かったこと等から、被告人一人で、同会社の業績のほぼ六・七割をあげるまでに、至ったのである。

その結果、社長の被告人に対する信用は日増しに厚くなり、同五七年四月、営業課長、同五八年四月、営業部長、同五九年三月、取締役営業部長、同六〇年四月、常務取締役と異例の昇進を遂げ、同会社では、社長が被告人をその片腕として重用し、同被告人を手放すことのできない状況となっていた。

<3> その間、被告人は、同四八年一一月、大学時代に知り合った現在の妻洋子と結婚し、一男二女の父親として、家庭的にも妻や子供の良き相談相手となって、円満な家庭を営み、妻や子供から尊敬されているのみならず、父や継母にも孝養を尽くし、今や、山田一族の中心として活躍しており、山田一族では、欠くことのできない支柱の役目を果たしているのである。

これら被告人の身上、経歴、家庭の状況等及び被告人の実父及び妻も公判において、指導・監督することを誓約していることを量刑判断にあたり考慮さるべきである。

原判決は、これらの諸点につき「その他、いわゆる脱税協力金の支出、犯行後における所得税率の低減、大企業による逋脱犯罪に対する刑事訴追の実情あるいは類似事案における下級審の裁判例等に関する縷々の所論は、いずれも弁護人独自の見解を前提とするものであって、本件の量刑事情として考慮することは相当でないものといわざるを得ない。」と判示するが、以上詳述した情状及び同情さるべき諸点については、被告人の刑の量定にあたり重視さるべきものと思料する。

ところで、脱税者についてみると脱税した点で非難されるべきであるとはいえ、他方見方によれば、経済活動面においてそれなりに成功している者と評価できるであろう。そこでこれらの者の処罰にあたっては、よ程のことがない限り、初犯者であり、深く反省して本税等を納付している者については、実刑を科するより、執行猶予に付した上、社会において経済活動をさせることによって社会的にも貢献させ、その活動により得た所得につき正しく納税させることにより、納税態度を改善させて行くことが刑政の上からも重要なことではないかと思料する。社会にとって有為な人材を、初犯の脱税により、しかも本人が深く反省し、本税、附帯税等を完納しているのに、これに罰金刑を科する上に懲役刑につき実刑に処し、これにより社会活動を停止させ社会から隔離することは、被告人本人のみならず、その家庭にとっても、更には、社会的にみても大なる損失というべきであるし、最近のほ脱税事犯についての余りにも厳しい判決の状況を、他の一級刑事事件殊に財産犯の量刑との比較においてみてもほ脱事件につき、そこまで厳しくしなければならないのかについて多大の疑問がある。

以上、本件のすべて情状を実質的に考慮するとき、被告人に対し、実刑判決をもって臨むことは、刑政の理念に悖るばかりか、その影響するところ重大であって、原判決の刑の量定が不当であることは明白であり、破棄しなければ著しく正義に反するものと信ずる。

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